「復興への力、それを妨げるもの」開沼 博(かいぬま・ひろし=福島大学特任研究員。1984年福島県生まれ。東大文卒。同大学院情報学府博士課程在籍。専攻は社会学。)
平成27年10月20日(火)電気新聞
今月10日、福島県の海岸沿いを縦断する国道6号線で清掃ボランティア活動「みんなでやっぺきれいな6国」が行われた。国道6号線は福島第一原発に最も近い幹線道路だ。この活動は、広野町に拠点を置く「NPO法人ハッピーロードネット」が、2007年から毎年秋、地域の子供と一緒に環境美化を目的に始めた。福島第一原発事故以降、休止せざろう得なかったが、今年になって5年ぶりに再会。地元中高生ら200人を含む1400名ほどが参加した。地元紙等メディアは、地域の再建を望む高校生の声とともに、この活動の様子を報じた。
ただ、平穏な「復興への明るい一歩」に見えるこのイベントの裏側には葛藤があった。被爆回避を掲げる複数の市民運動団体がイベント開催を阻止しようと主催者や協力を予定する組織に「抗議」の文書や電話・メールを送ることを繰り返し、インターネット上で叫弾運動を展開した。「避難区域で子どもにゴミ拾いをさせて無用な被爆を促す活動は中止すべきだ」というのが主たる主張。「社会貢献のふりをした安全キャンペーン」「虐待・国賊」「福島はチェルノブイリの比ではない状態。一刻も早く逃げろ。これは殺人だ。」といった言葉が投げつけられた。
無論、主催団体にそのような意図・背景は皆無だ。この活動自体震災前から続いてきたものであるし、今回清掃が行われた国道6号線は沿岸自治体の南端・いわき市から北端・新地町までのを貫く道路で避難地域はごく一部に過ぎない。高線量地域が残る避難地域の清掃は大人が行い、参加者の体調には十分な配慮がなされた。
そもそも、背景には地元の子どもたちの強い思いがあった。
ハッピーロードネットは、福島第一原発事故以後、国道6号線への桜の植樹を進める「ふくしま浜街道・桜プロジェクト」を続けてきた。事故直後は「永遠に人が入れない」と繰り返し言われてきたこの道に「いつか子どもたちが戻ってきた時に、世界一の桜のトンネルができれば地元を誇れるのでは」とNPO代表で地元の主婦でもある西本由美子さんが始めた活動だ。1口1万円の寄付をすれば、誰でも桜1本分の「オーナー」になってメッセージと名前が書かれたプレートが掲げられる。参加のしやすさもあって、国内外から多くの賛同が集まってきていた。
今年3月、その植樹活動に参加した地元の高校生が、4年間十分な清掃もされぬまま来た国道のゴミの多さに驚き、西本さんに清掃活動の再開を提案したのが再開のきっかけだった。
地域の青年会議所に所属する若手経営者らが運営の協力をし、当日は地域住民はもちろん、東京電力社員や廃炉・除染に携わる人も多数参加した。地元の住民同士、住民と東電や廃炉・除染作業員の間の溝を埋め復興に向かう貴重な動きだった。
しかし、これを妨害するのは「福島、子どもたちのため」を掲げる人々だった。当日は、「被爆にまつわる陰謀」を追う一部の雑誌等が大挙して押し寄せ、ボランティアの横で線量計をかざし喜々として写真を撮った。眉をひそめつつ「自分の吊るし上げられるのでは」と口をつぐむ地元の者も少なくない。
このような「市民運動の暴力」は他でもよくあるし、言論の自由も保たれるべきだが、放っておけば解決する話ではない。
反論できない立場に追いやられた被災者への罵声は時間の経過とともに先鋭化しているように見える。復興が進み、想定した極端な放射線による被害が起こらないことが彼らのイデオロギーの根拠を奪いつつある故だ。
このような事態がいまも起こっていることが広く認識され、このNPOのような地に足がついた活動への支援の輪がさらに広がっていくことが望まれる。
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